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夕焼けはなぜ美しいの?

〜『出会いと別れ』を問う

巣立ちゆく卒業生に“特別授業”を通して託す担任のメッセージ

平 治(筆名)

2000年3月8日(水)産経新聞静岡版”学びと教えの現場から”掲載

 沈丁花(じんちょうげ)の香りがそこはかとなく漂い始め、教室の手作りカレンダーが「卒業まであと十日」と告げる…。
 六年生最後の三月。「教科書を使った学習だけでなく、卒業生に何かぴったりの教材はないか」と担任はアンテナを広げている。時に、校長先生をお呼びしてお話を伺ったり、他のクラスの担任と入れ替わって交換授業をしてみたりする。
 そんな折、ある新聞の記事が私の目に飛び込んできた。『アルプスの少女ハイジ』(J.シュピーリ作)の中の一節−ハイジが「夕焼けはなぜ美しいの?」とおじいちゃんに尋ねる、というコラムであった。
 『ハイジ』。「世界の名作」の読み聞かせでは、子供たちからの一番人気。声優の小原乃梨子さんが日本各地で行っている読み聞かせの中での実感なのだ。
 しかし、ハイジを知らないで過ごしてしまう子供もいる。そんな子のために、授業では、あのアニメの歌「おしえて」をまず歌って、ハイジの世界へと誘う。そして、次の場面を語る。

■子供たちに想像を■

 ハイジがお日さまのにおいをいっぱいあびた干し草のベッドを作ろうとする。桜草やリンドウのお花畑に感激し、それを摘んでおじいちゃんにおみやげとして渡す。でも、花はみすぼらしく、しぼんでいた。泣きそうになったハイジにおじいちゃんが諭す。「花はな、お日さまに照らされていたいんだよ」
 生まれてはじめて見たアルプスの夕焼けの話をハイジがおじいちゃんに一生懸命話す場面へと語りを続ける。「山が燃えていたようだ」とハイジは言う。そして、ハイジは尋ねる−「夕焼けは、なぜあんなに美しいの?」
 この時のおじいちゃんの返答を子供たちに想像させる。「ハイジを喜ばせるおじいちゃんの素敵な一言を考えてみてごらん。」と。
 この問いに、初めは戸惑う子供たちだが、しばし沈黙の後(子供の奥底にきっとある豊かな感性を信じ、待つ−)鉛筆が動き出す。
 子供たちはどんな「それはね…」を創(つく)りだしたのであろうか?いくつか紹介してみよう。
・山と空と雲。みんないるから嬉しいんだ。
・もうすぐ黒いインクで塗られてしまうと思ってベソをかいた後だからさ。
・いつも空から眺めているヤツだから、かわいい女の子でも見つけて照れているのと違うかな。
・お月さまと、どっちが美しいか競争しているんだ。
・夜になると太陽は隠されてしまうから、夕方になると、太陽は自分を着飾るからなんだよ。
・夕焼けは落ちる前に一日の終わりで精いっぱいのエネルギーを出しているんだ。
・それはね、その日の終わりを教えるシンボルマーク。だから美しいのさ。

■再会を願って■

 子どもたちの思い思いに描く夕焼けの美しさ、切なさが表れているように感じられる、実際にハイジのおじいちゃんは、どのように答えたのだろう?
大野芳枝訳(集英社版)では次のようだ。《それはな、お日さまが、山に「おやすみ」を言ったんだよ。自分の一番きれいな光をそそいで「また、あしたあおう」と、約束したんだよ。》「夕焼け」にあるおじいちゃんの言葉から「出会いと別れ」という思いを伝えようとするのは、いささかこじつけかも知れない。しかし、共に学び合った子どもたちの別れ。お互いに美しい光を投げ合って「さよなら」を言い、またいつか会う約束を…そんな願いを込めての一時間だった。

*

 卒業を間近に控え、担任は“巣立ち”ゆく子供たちへの様々なメッセージを、授業を通し託そうとする。
 『ハイジ』を教材にしたこの日の授業も、「卒業」という夕焼けを前にした、私から教え子たちへの熱いメッセージであった。

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